被服学は、衣服のデザインや製作、素材となる繊維の開発や生産、衣服の流通・消費、服飾文化や歴史といった、衣服と生活の関わりを、科学的・文化的に研究する学問です。被服学のかつての主目的は「洋服や和服の縫製技術の修得」でしたが、現在は「快適な生活やライフスタイルのための衣服の創造」に移行しています。
衣服の歴史や文化を学ぶ「服飾美学・服飾史」や、被服の流通や消費に関するマーケティングなどを学ぶ文系的要素と、衣服を創作するための素材の研究、防炎・防臭・防水など加工技術の研究、被服製作や縫製技術、コンピュータでの設計・製図を学ぶ理系的要素が絡み合っているのが特徴です。色彩学、テキスタイル(織物・布地)デザイン、人間工学、繊維や染色の化学工業技術などとも深い関わりがあります。
アパレル関係、繊維メーカー、流通・サービス業などへ就職する人が大半です。デザイナー、パタンナーといったクリエイターや、商品企画・商品管理、品質管理に関わりながら専門的な能力を発揮する人、家庭科教員になる人もいます。
お茶の水女子大学 生活科学部 人間生活学科 准教授 難波 知子 先生
日本では多くの中学校・高等学校に制服があります。特に女子高校生の制服は、海外でも人気になっているようです。日本人の学生生活に深く根を下ろし、海外でも注目されている日本の制服は、どのように始まり、どんな道筋をたどってきたのでしょうか。
日本で学校の制服が導入されたのは明治時代で、着物から洋服への移行時期と重なります。当時、洋服は少数の裕福な人しか着られませんでした。教育界ではまず、学習院の男子生徒や帝国大学の男子大学生が揃いの洋服を着始めました。軍服にも採用された機能的な詰襟のデザインが選ばれ、次第に男子の「学生服」として定着していきます。大正時代の終わり頃には、学生服が大量に生産され、小学校の男子児童にも着用されました。
同様に、女学生の制服として明治30年代から普及した「はかま」は、高等女学校に通う女学生が動きやすさなどから着用し始め、それが評判になって、「女子学生=はかま」という社会的な認知にもつながり、「制服」として普及したと考えられています。
「学生服」も「はかま」も、当時は個々の学校において、あくまで着用が「推奨」とされていることが多かったのですが、興味深いのは、当時から今に至るまで文部省(現・文部科学省)が着用を義務付けているわけではないという点です。それにもかかわらず、学生服やはかまは全国に普及し、今日まで続く「学校制服」の慣習につながります。
そこには、「自分だけ着ないのは恥ずかしい」という暗黙の強制力が働いた可能性があります。しかし、それだけでは普及と継続は難しいでしょう。積極的に制服を受け入れる理由があったはずです。例えば、制服を着ることで生まれるアイデンティティ、制服という枠組みの中で発揮される個性、学生という身分の承認などが考えられます。文化とは、さまざまな要素が複雑に絡み合って育まれるということを、学校の制服の歴史は教えてくれるのです。
武蔵野美術大学 造形学部 空間演出デザイン学科 教授 津村 耕佑 先生
ファッションを学ぶとは縫製や製図などの技術を習得することのように思われがちですが、技術は時代とともに変わっていきます。もっと普遍的な、新しいものを作るための発想を身につけることが必要です。クリエイティビティ(創造力)とは、世の中を変える起爆剤になるべきものです。服だけに限らず取り巻く空間であるインテリア、家、地域、国まで概念を広げ、美意識や思想をひっくるめた形で網羅して考えてみましょう。自分の体に近い服というものを見つめ直し、さらに社会や時代を反映したライフスタイル全般を作り上げていくことがテーマとなるのです。
ブランド「FINAL HOME」では、全身がポケットになっていて、水や日用品を入れたり新聞紙を詰めて防寒したりできる機能性のあるコートを作っています。ポケットは表地と裏地の間にものを入れるつくりになっていますが、実は日本の着物と同じ発想からできています。こうした日本の文化をベースにした発想こそが今のファッションに必要なものと言えるでしょう。洋服はヨーロッパで生まれ発展してきたので、ヨーロッパと同じ発想では後追いのものしかできません。日本の気候や文化、日本人のよさや強さを生かしたものが武器になるのです。ユニクロがなぜ好調なのかというと、大量生産していく工業技術という日本人の得意なものを軸にしているからというのが一つの要因です。
日本のアパレルは技術力も高くセンスもよいのに、ブランド力を高めたり伝えていったりすることがうまくありません。ファッションは作るだけで終わるものではなく、流通に乗り、メディアに出て広まってこそ、評価されます。ファッションショーや雑誌のあり方も変わってきつつあり、ソーシャルメディアをはじめとするインターネットでのコミュニケーションが発展しています。この時代にどう発想し発信していくかを考えるところからデザインが始まるのです。
多摩美術大学 美術学部 生産デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻 教授 髙橋 正 先生
繊維や生地は歴史的に防寒や安全のための機能だけでなく、美しい模様で生活に潤いを与える役割もあり、ファッションやインテリアに使われてきました。「テキスタイルデザイン」とは、かつては染めや織りに関するものでしたが、産業の機械化が進み、編む、プリントするなど領域の広がりが出てきました。
最近では繊維自体が機能を持つことも増えました。ユニクロのヒートテックのような保温性の高いものや、遮光性のあるカーテン生地などが代表的です。それらの生地にデザインを加えることは人目を引くだけでなく、生活の中で機能を果たす役割も持つようになっています。
テキスタイルデザインは生地についてあらゆる知識が必要です。繊維や糸を作るところから、織物の柄や色彩計画、プリントの版による製法、色の知識、また最近ではコンピュータの知識も必須です。
特徴として、手で繊維や布を触ってデザインを考えるというところがあります。手で触った感触をデザインとして頭の中で言葉や形にイメージ化していくのです。また、プリントにおけるパターンデザインの特徴は繰り返しで、単なる絵ではなくそれが醸し出す空気(atmosphere)です。どのような用途に使われるのか空気を読み取ってデザインするセンスや知識も必要です。
例えばカーテンのデザインは、そのデザインだけで終わりません。空間全体の中でどうあるべきか、建築全体でどう考えるか、窓の外の自然との関わりはどうかなど、いろいろな広がりが考えられます。生活の中に浸透している分、生活が変わるとテキスタイルデザインも変わります。最近のIT化を反映して、通電性の差がある繊維を混合して、電極を付けて音楽をプログラミングした布シンセサイザーを作るというような、他分野への広がりも進行中です。一方、バナナ繊維を使用して環境に優しい繊維製品(紙、糸、布)の開発なども発展途上国へのデザイン支援という形で社会に貢献しています。
文化学園大学 服装学部 ファッションクリエイション学科 教授 高村 是州 先生
時代とともに変化するファッションは、社会を映す鏡とも言われます。社会に生きる私たちは出会った相手が身につけているものからその人の内面を想像します。最初の段階でファッションをうまく活用すれば、互いをより円滑に理解できます。ファッションとコミュニケーションはある意味、ほぼイコールな存在と考えてもいいでしょう。
フランスの著名なファッションデザイナーのココ・シャネルはかつて、「着る物を選ぶということは、自分の生き方を選ぶことだ」と言いました。ファッションは自分自身の内面や生き方を表現する上で、大切な役割を果たしているのです。
ファッションについて理解や知識を深めていくには、まず、友だちや身近な人の私服をよく観察してみるのがいい方法です。お互いに気づいたり感じたりしたことを話し合ってみましょう。すると、相手の個性的な一面を知ったり、逆に相手からのアドバイスで自分自身を見直すきっかけを得たりできます。身近な人とのファッションについてのコミュニケーションは、世の中の流行を知ったり、自分らしさを表現したりする方法など、たくさんのことを気づかせてくれるでしょう。
ファッションについて勉強すると、服やアクセサリーをデザインしたり作る仕事だけでなく、例えばアニメやゲームに登場するキャラクターのデザインや、そこから広がるコスプレなど、ポップカルチャーの分野でも役立つ知識とセンスを養うことができます。衣生活をよりよくするための研究もできます。そもそもファッションは、政治、経済、文化、歴史など、社会のあらゆる場面に密接に関わっている存在です。ファッションを学ぶことは、人間と社会のあり方そのものについて理解するための大きなヒントにもなるのです。
神戸芸術工科大学 芸術工学部 ファッションデザイン学科 准教授 吉田 尚美 先生
ファッション雑誌は、時代を反映しつつ最先端の情報を提供しています。ファッション雑誌の編集者は、流行の服やアクセサリーの紹介だけにとどまらず、時代の流れや読者の意識がどう移り変わってきているかを敏感に読み取る能力が問われます。まずは、「書店で手に取ってもらうための工夫」、そして「買ってもらえるための工夫」「買ってよかったと思わせる工夫」「次も買いたいと思わせる工夫」が求められます。
ファッション雑誌を制作していくに当たっては、さまざまな業種の人が関わっています。編集者、ライター、グラフィックデザイナー、DTPオペレーターからアートディレクター、メーカーのプレス担当、スタイリスト、ヘアメイクアーティスト、商品の仕入や販売担当、そしてモデルまで、それぞれの立場で特性を生かして仕事をしていきます。
例えば、グラフィックデザイナーには、元のデザインのイメージを損なうことなく、元のデザイン以上に魅力あるビジュアルづくりが求められます。そのためグラフィックデザイナーもファッションを理解していなければなりません。その上で写真画像処理の高度な技術と的確な色彩感覚で、そのファッションがいかに魅力的であるかを表現していくのです。
現代では、ファッションに関しても、SNSをはじめとするインターネット上の発信からコミュニケーションが生まれることがあります。また、SNSから発信された情報が雑誌に展開されるなど、ファッション雑誌のあり方も変容しています。
ファッションは、制作して終わりというものではなく、それを流通にのせ、メディアに広めていく必要があります。ですから、目に見える形にするためのスキルと、それを伝えるためのスキルの向上が求められるのです。時代は刻々と変容しています。今後、伝えていくために必要になるのは、時代を見通すデザイン力です。
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好きな服飾について学べるし、楽しそうだったから。
舞台衣装の仕事に携わりたいため、服飾に関する専門教育をおこなう単科大学てある点に魅力を感じました。
これから習得したい技術や内容が勉強できるから
やりたいことができる環境であり、カリキュラムが魅力的だから。
ファッションを根本としたカリキュラムがある
実際に会社で使われているミシンがあることや、ショーができるホールがあるところ。
全ての分野を総合的に学習してから専門分野へいけるから選択肢が多い
大学でファッションデザインを学べる
お茶の水女子大学 生活科学部
被服について学びたかったので、生活科がある国公立大学を志望しました。
複数のプログラムを履修できる制度があるなど、幅広い学問を習得できる環境があるから。