獣医学は、6年制のカリキュラムを基本として、産業用動物やペットの病気の診断や予防、治療を行う獣医師の養成を主目的とする学問です。BSE(牛海綿状脳症)、鳥インフルエンザなど家畜の伝染病の発生は深刻な問題で、その予防など病気への対応は、獣医師の重要な職務です。また、4年間のカリキュラムで愛玩動物看護師や認定動物看護師、介助犬の養成などをめざす獣医保健看護学を学べる学科もあります。
獣医師が活躍するフィールドは、動物の診察や治療だけにはとどまりません。獣医師の職域としては、食品の衛生検査・監督・指導、動物用・人体用の医薬品の開発研究、野生動物の生態調査やその保護、バイオテクノロジー分野の研究など、一般的な獣医師のイメージではとらえきれない活躍の場があります。
獣医師などの専門職に就く人が大半です。官公庁の公衆衛生や畜産部門、農業団体、競馬関連公的機関への就職も人気があります。民間企業では、畜産、乳業、飼料、食品メーカーでのスペシャリストとしての活躍が期待されています。
酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 教授 堂地 修 先生
あなたは、牛乳をよく飲みますか? 牛肉料理はどうでしょう? 牛乳や牛肉は、今や私たちの食生活に欠かすことができません。家畜としての牛を改良し、より効率よく繁殖させる方法として、現在「人工授精」「受精卵移植」「体外受精」「クローン技術」の4つの技術が、世界的に利用されています。人工授精は、雄から精液を採取して、雌に人工的に注入し、妊娠させる技術です。1970年代から行われているので技術的には完成しており、現在日本で生まれる子牛のほとんどは、人工授精によって生まれています。しかし、近年の酪農環境の変化に合わせて、見直さなければならない点も出てきました。例えば、一軒の農家が数百頭の牛を一ヵ所の牛舎で飼うようになると、管理が追いつかなくなり、受胎率が減少します。以前は、一度人工授精をすれば、約6割の牛が妊娠したのですが、4割程度に減ってきています。子を生まない牛は肉牛として処理されますが、コストがかかるので、農家としては、健康で長生きし、1年から1年2ヵ月毎に出産する雌牛というのがベストなのです。
最近では、受胎率を上げるために、最も妊娠しやすい時間がいつなのかを特定できるようになっています。牛の発情期は、21日周期で12時間続きます。牛は発情するとよく動くようになるので、目で見てもわかりますが、何百頭もの牛をずっと見ているわけにもいきません。ですから足に万歩計を付けて、情報をコンピュータで管理しておけば、歩数の増えた牛が発情しているとすぐにわかります。
一方、牛全体の繁殖能力が高く、しかも体の大きさや食べる量にばらつきがない方が、効率よく牛を管理することができます。そのために遺伝的改良が行われているのですが、これには優秀な雄牛の精液を使います。繁殖能力の高い牛の精液は、0.5ccで1万5000円ほどで取り引きされており、中には一生の間に数億も稼ぐ種牛もいます。乳牛の精液は、海外からも大量に輸入されています。
広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 谷田 創 先生
畑にイノシシやシカが出てきて作物を食い荒らすために農家が大変困っています。日本国内だけでも年間約200億円の被害があると言われています。原因はさまざまですが、農家の人が野生動物がすむ裏山(以下、里山)を利用しなくなったことも関係しています。昔は、里山は資源の宝庫でした。ご飯や風呂を炊くための薪をとったり、刈った芝を牛に与えたり、採集した山菜を食料にしたりしていました。また、田畑では牛を使って土を耕して米や野菜を作り、牛の糞を肥料にしていました。理想的な自然循環の自給自足生活が行われていたのです。
ところが、戦後は農家にトラクターが普及して牛が使われなくなり、電気やガスが整備されることで薪がいらなくなりました。また、生活が豊かになり食料や肥料をお店で買うようになったので、里山を利用する必要はなくなり、里山の価値もなくなりました。昔は人が里山に入ることで、掃除がきれいに行き届き、見通しも良かったので、野生動物が隠れる場所はどこにもなかったのですが、人に利用されなくなるとジャングルのようになり、動物が村の近くの里山にすみつくようになってしまったのです。さらに悪いことに、里山にあった実のなる木(ドングリなど)をどんどん切って、そこに建築材として杉を植林しました。その結果、えさがなくなった野生動物は食べ物を求めて畑に出没するようになったのです。
そこで農家は駆除を求めるようになりました。しかし、人間の都合だけで一方的に野生動物の数を減らすと生態系が乱れ、生物の多様性がなくなります。現在、国や地方自治体などは被害対策として、田畑の周りに柵を作る費用を補助したり、狩猟により数を減らす努力をしていますが、期待された成果はあがっていません。今後は、野生動物の生態を科学的に調査した上で、人にとっても野生動物にとっても望ましい管理対策を提案していくことが必要です。
山口大学 共同獣医学部 獣医学科 教授 水野 拓也 先生
ペットとしてのイヌは、ヒトに一番近い環境で暮らす動物であり、ヒトで見られるような同じような病気もたくさんみられます。イヌもペットフードでバランスのとれた食事をするようになり寿命が延びることで、高齢になってからがんと診断されることが増加しています。イヌの病気による死亡原因として最も多いのは、悪性腫瘍(がん)であり、大きな問題となっています。
がんに対する治療法は、ヒトもイヌも同じで、抗がん剤、外科手術、放射線治療の3種類が主に用いられます。しかしこうした治療のみでは限界があり、それ以外の新たな第4の治療法を多くの研究者は模索しています。これまでイヌのがんに対する主な治療法は、ヒトの薬の量を調節して与える、という方法が行われてきており、イヌのがんの原因や発生メカニズムを解明して治療法を確立するという方法はあまり行われてきませんでした。理由としては、イヌのがん研究の研究者の数が少ないことや、日本の飼い主側の病気の動物に対する治癒への要求が高くない場合が多いことが原因でした。
獣医学研究はヒトの病気の解明にも役立ちます。医学研究で病気のモデルとして用いられる実験動物であるマウスでは、強制的に病気を起こさせるため、病気が自然発症するヒトとは条件が違うという問題があります。その点、病院に来るイヌは自然にがんになった動物であるため、よりヒトの病気に近い状態です。したがって、もしヒトのがんとイヌのがんのうち、同じメカニズムで発生しているがんが存在すれば、イヌのがんの新しい治療を見つけることは、同時にヒトのがんの新しい治療法になる可能性があるのです。このようなことが実現できれば、それは動物のためだけの研究にとどまらず、人間の医療にも貢献できる獣医学研究の新しい意義ということができるでしょう。
麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 教授 菊水 健史 先生
古代からヒトはイヌと仲良く生活を共にしてきました。なぜイヌは、ヒトと特別な関係を形成できたのでしょうか。「動物行動学」では、この理由を科学的に解明しようとしています。これまでの研究で、ヒトが指をさしたものにイヌが敏感に反応するのはわかっていました。また動物の世界では相手の直視は威嚇のサインになりますが、例外的にヒトは見つめ合う行為を親和的なサインと受け止めます。これらのことから、ヒトとイヌの絆を作り出しているのは「視線」や「見つめ合い」がカギになっているのではないかと、さまざまな研究が進められています。
研究では、ヒトとイヌの視線が合う行為によって、「幸せホルモン」とも呼ばれる神経分泌物質のオキシトシンが体内でどのように変化するかを分析します。例えば、飼い主とイヌが30分間の交流をして実験前後の尿中のオキシトシンを比較したところ、よく見つめ合っていた場合は飼い主にもイヌにも濃度の上昇がみられました。
また実験前、イヌに人工的にオキシトシンを投与すると、交流中にイヌから飼い主へ視線を送る行動が増えました。見つめられた飼い主もオキシトシン分泌が促進されて相互に良い関係を持続できることから、人間の母子間でみられるのと同じ生物学的な絆がヒトとイヌにも芽生えるのではないかと考えられています。
同じ実験をイヌと共通の祖先を持つオオカミで行ったところ、長年飼われていた場合でも交流後にオキシトシンの分泌量は変化しませんでした。これはイヌのみが進化の過程で何らかの遺伝子の変化を生じ、ヒトとの共生が可能になったからだと考えられます。
つまり種の異なるイヌとヒトがなぜ親密な絆を結べたのかを科学的、遺伝学的に解明できれば、ヒトが他者との協力や共感を重視して進化を遂げた理由は何なのか、というところまでわかるようになるかもしれないのです。
鳥取大学 農学部 共同獣医学科 教授 伊藤 壽啓 先生
ウイルスには、ある種の動物にしか感染しないものと、インフルエンザウイルスのように人やニワトリを含むさまざまな動物に感染するものがあります。どこに違いがあるのでしょう?
インフルエンザウイルスは口から体内に入ると、まず喉の細胞に吸着します。細胞表面にはレセプター(受容体)と呼ばれる器官があり、まずそこにウイルスが結合します。ところが、この器官には鍵と鍵穴のような仕組みがあり、形が合わないと結合できません。インフルエンザウイルスの場合は、人とニワトリの両方のレセプターに結合できるウイルスが存在しているわけです。
しかし、インフルエンザウイルスは最初から人に感染するウイルスではありませんでした。起源はカモの腸内ウイルスで、そのウイルスが突然変異でニワトリに感染できるウイルスに変異し、さらに人にも感染するようになりました。感染する動物の近い場所に別の動物がいると、ウイルスと接触する機会が増えます。そして突然変異が起こり、感染できるウイルスが誕生します。人の体内で最も効率よく増殖できるウイルス、すなわち人に最適化されたウイルスがこのようにして生まれるのです。
インフルエンザウイルスが人に感染するとウイルスの遺伝子が人の細胞内に注入され、その細胞で次々と子孫ウイルスが増殖します。一方でその細胞も破壊されていきます。その結果、インフルエンザの症状である咳、熱、体や喉の痛みなどが表れます。ただし、細胞が破壊されるとウイルスも増殖できなくなるので、ウイルスにとってはよいことではありません。実は、人やニワトリにとっては有害なインフルエンザウイルスも、カモにとっては無害な場合があります。これはカモとインフルエンザウイルスが「共生」しているためです。これがウイルスにとって理想の型です。今は有害なウイルスが、遠い将来、無害なウイルスに変異し、人と共生する可能性もあるのです。
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動物学を全般的に学びたかったから
動物行動学の研究室をもつ先生がいらっしゃったから。
発送予定日:
モデル犬制度があり、高齢動物看護学があるから
動物と向き合う仕事に適した授業内容であるため。
野生動物について学べるから
大学の環境は学びや研究がしやすい場所となっており、自分が動物の遺伝子の研究をするのに最適だと思った。
獣医師になるために、獣医学部のある学校。愛玩動物よりも大動物に強い大学。
獣医師免許取得、鳥インフルエンザ研究実績
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北海道大学 獣医学部
海外協力など、国際的なレベルの教育が受けられる。野性動物学研究室がある。
動物実験施設(AAALAC完全認証取得)がある