農業経済学は、社会科学的な視点から日本や世界の食糧問題・農業の問題を研究する応用経済学という側面があります。例えば、農業政策論では、日本や世界の農業政策の歴史を振り返ったり、現在の農業が置かれている状況、高齢化が進む地域での農地の荒廃の問題などの解決策を探ります。農業生産や所得の向上、農村地域の振興のためのブランド食材の開発や流通ルートの開拓なども研究対象となります。
農業経営への株式会社の進出や、農協といった組織を研究することもできます。さらに、研究対象は日本国内の問題だけにとどまらず、重要な問題となっている農産物の貿易自由化や日本の食糧需給率の低下にともなう食糧の安全保障の問題など、国際的な視点からも、農業が抱えている課題の解決に取り組んでいきます。
農学と社会科学の両方の学問の修得により、全国農業組合連合会、農協などの農業関連団体、食品・流通・販売といった業種のアグリビジネスへ進む人が大半です。環境関連、運輸やエネルギー関連の企業に就職する人もいます。
弘前大学 農学生命科学部 国際園芸農学科 教授 石塚 哉史 先生
最近、欧米やアジアの国々で和食ブームが起きています。ヘルシーで素材の良さを生かす「和食」は、ユネスコ無形文化遺産に登録されており、有名です。その原料である農産物も高く評価されています。例えば青森の特産品であるリンゴは、甘みや香りが豊かでサイズが大きく、色も鮮やかなことから、海外では富裕層向けに売られています。
現在の日本の食品流通では、バイイングパワーが強いため、スーパーをはじめとする小売店が優位な立場にあります。この理由として、農家の売り先はスーパーが中心であり、それ以外の売り場が少ないことがあげられます。仮に海外への農産物の輸出が盛んになれば、農家にとって新たな売り先ができ、価格や販売方法も今よりも有利に進められる可能性が高まります。実際に、北海道のながいも農家の中には、輸出に力を入れはじめてから収入が増えた人もいます。個々の農家がビジネスのノウハウを身につけることが前提ですが、停滞する日本の農林水産業を活性化させる手段として、輸出に注目が集まっています。
日本の食品の輸出金額は年間約9,000憶円です。政府は1兆円をめざして、農林水産物輸出のサポートに力を入れています。しかし、輸出の内訳をみると、日本酒や調味料という加工品が多く、果物や野菜は1割以下です。調味料や加工品には海外産の原料が含まれているため、産地や農家を活性化させるという点では、果物や野菜という生鮮の割合を増やすことが重要です。
こうした問題を取り扱う学問が農業経済学です。経済学の理論や知識をベースに、農学の特性を加えて幅広く研究していくものです。食料自給率が低いことをはじめ、日本の農業・農村は問題が山積みです。これからの日本の農業を考えると、農業経済学が果たすべき役割は大きいといえます。
茨城大学 農学部 地域総合農学科 教授 中川 光弘 先生
「食の安全性」は、最近特に世界的に関心が高まっています。日本は世界でおそらく安全性の基準値が一番厳しい国で、国民の意識も高いでしょう。発展途上国では、日本ではすでに禁止になっている毒性の強い農薬を、まだ使っている国もあります。そういう農薬を使った農作物が入ってくることもあるのですが、食物検疫制度でチェックして、毒性の強い農薬が検出されたり、残留基準を上回ったりした場合は輸入禁止になります。先進国からの場合でも、アメリカで牛海綿状脳症(BSE)が発生した時には牛肉が輸入禁止になったこともありました。安全性に関して最近よく言われているのが、トレーサビリティ(履歴性)という言葉です。農産物がどこで生産されて誰が収穫し、誰が加工し、どう運ばれてきたのかを明らかにするもので、BSEの問題以降、特に注目されるようになりました。農林水産省でも新しい安全の指標として、トレーサビリティを明らかにすることに力を入れています。
また最近は、オーガニックファーミング(有機農業)がブームになっています。農薬や化学肥料を使わないので健康にいいのですが、その分価格は高くなります。オーガニックコットンの服を選んだり、オーガニックコーヒーを飲んだりすることがファッションのような形で若者に受け入れられています。安全性が高く、かつ環境によいという意識の高さを表すためにお金を払う価値があると考えられているのです。
日本の農産物は安全かつ品質がいいことで評価され、中国沿岸部の富裕層は、中国産の10倍近く価格が高くても日本産のお米を買うということもあるようです。TPP(環太平洋経済連携協定)に加入すると関税が撤廃され、価格競争になると日本の高い農作物は不利という見方がありますが、安全性と高品質を武器に市場で勝ち抜いていけるのではないかとも考えられています。
吉備国際大学 農学部 地域創成農学科 教授 谷坂 隆俊 先生
作物を大きく立派に育てるには、どうしたらいいでしょう? 「病気や害虫を駆除し、水と肥料をたくさん与える」と考える人がいるかもしれません。確かに殺菌剤や殺虫剤を使うと、病気や虫を駆除できますが、土の中の有機物を分解し土を肥沃にしてくれる微生物(菌)の多くも死んでしまいます。こうなると土は痩せ、健全な作物が育たなくなります。健康な作物を育てるためには、豊かな土が必要ですが、現状はそうではありません。また、害虫は肥料成分の窒素の臭いに寄ってくることが多く、窒素肥料をやらなければ、殺虫剤を減らすことができ、虫が媒介する病気にもかかりにくくなります。自然界には、自浄システムがあり、このシステムを利用すれば、環境に優しい持続的農業ができるのです。
漁業でも同じような問題が起こっています。日本人の好きなエビは、海外で盛んに養殖されていますが、水質汚濁が進み放棄される池が急速に増えています。エビを多く収穫しようとして、エサをたくさん与えると、水が汚れてしまいます。そうなるとエビは病気にかかりやすくなり、薬を投与しなくてはならなくなります。投薬は池の水をきれいにする微生物の働きを弱くするため、水はどんどん汚れ養殖ができなくなってしまいます。この悪循環を断ち切り、同じ場所で、持続的な生産を続けるためには、根本的な水質の改善を考える必要があります。
農業・漁業では、生産性を上げることが求められていますが、「百年後、ここで農業ができるのか、魚を育てられるのか」と考える必要があります。近年では、土の持つ力を活性化させる研究が進んでいます。例えば、数種類のアミノ酸とビタミン、糖、クエン酸を混ぜて作った液体を撒くことで、土や水の中の微生物が元気になり、土は肥沃に、水はきれいになることが明らかになっています。自然界が持つ力をきちんと見きわめ、それを生かす方法を考えていくことが、百年後の農業・漁業につながっていくのです。
静岡大学 農学部 生物資源科学科 准教授 藤本 穣彦 先生
日本の農業や農村が、しだいに元気を失っているように感じませんか? なぜでしょう? どう守っていったらよいのでしょう? 「農村資源計画学」では、その土地の自然や生活、特に農業を中心に1次産業が抱える問題を多角的な視点から診断し、規模に見合った新しい戦略を構築していきます。農村空間の中にある川や水、山、土地などの地域資源を小規模なスケールでとらえ、丁寧にデザインし、未来の活性化につながるよう、地域住民と議論を尽くしてプランニングする、それが農村資源計画学の方法です。
農業の問題を「農業」の視点だけで解決しようとするとうまくいきません。農村社会にはさまざまな人々が暮らしています。それぞれが抱えている不安や懸念を洗い出して共有します。「産院がない(子どもを安心して産めない)」「獣害がひどい(農業のやる気がそがれる)」「若者がいない(未来に希望がもてない)」などの声を集めたうえで、包括的に解決するための総合戦略を立てます。50年、100年先の農村の未来を見据えて、今やっておかなければならないことを決めていきます。
フィールドワークを通して現地の人たちの暮らしを学び、文化や生活を経験することがスタートです。「地域を守るとはどういうことか」「この土地に生きるとはどういうことか」と、哲学的に考えます。そこにいる人々と、その土地とに正面から向き合うのです。その土地に継承されている具体的な技術実践を身につけ、新しい世代へ伝えていくことも重要です。水道や道、橋などの社会資本を誰かに任せてつくってもらうのではなく、改善や建設に地元の人たちが主体的に取り組むよう促します。地域の力が高まることで、未来のデザインはどんどん「更新」されます。この点に、農村資源計画学の面白さが詰まっています。
鳥取大学 農学部 生命環境農学科 国際乾燥地農学コース 教授 西原 英治 先生
近年、農家の高齢化などを原因とした耕作放棄地が増えています。この問題を解決するのに、「薬用植物」や「高付加価値作物」を生産できるようにする、という方法があります。
例えば、オタネニンジン(朝鮮人参)やカンゾウ(甘草)、マオウといった漢方の原料となる薬用植物栽培、近年スーパーフードとして話題のキヌアなど、本来は国内栽培されなかったものを日本の気候風土で安全・高品質に安定生産できれば、農業にとって大きな光となるでしょう。
ただし、栽培の研究には広い土地が必要です。加えて、米なら結果が出るまで1年かかるように、新たな作物は試行錯誤に時間がかかります。まずは研究者が実験し、種をいつまくか、肥料はいつ、収穫はいつ、などといった「栽培履歴」を作れば、農家はそれを参考に新たな作物を栽培できるようになります。ところが農家が実際に栽培してみると、実験のようにうまくは育たない事態がしばしば起こります。
栽培学研究のカギとなるのは、栽培経験に基づく発想と、農家の現場からのフィードバックです。そこで、栽培を継続してもらえるよう、事前に買い手と売り手の関係を開拓しておくことが必要です。その場合、買い手に購入してもらえる品質や量といった条件も把握しなければなりません。つまり、研究を始める以前から、どのようなものを、どの場所で、どのくらいの規模で栽培し、その生産量はどのくらいなのかなど全体のビジネスモデルを構築することが大切なのです。
例えば、企業と連携して作物栽培の方法を開発し、それを農家サイドで実証栽培し、その収穫物を加工し、県外の食品卸に売って収益を還元するといった仕組み、気温、照射する光の質やサイクル、肥料の組成や濃度、栽植密度などを明確化した植物工場での栽培方法、大面積で栽培するときの機械による合理化などを研究しながら、さらに収益構造といった側面から、有益な方法を日々探究するのも、栽培学にとって重要な課題なのです。
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農業を通しての地域活性化を学びたい。
食品関係の資格や、教員免許などを取ることができるから。
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自分が前から勉強をしたいと思っていた、食料経済分野の学部があったため
特に興味のある分野「食」に関するビジネスに絞って研究出来るので面白そうだと思いました。
オープンキャンパスに行き、学校の広さに感動し、学部の研究内容がとても興味が持て、食品の開発や薬品の開発をする会社に勤めたいと思い
野菜を効率よく栽培すると言うテーマについて研究していて、そのテーマに興味を持ったため。
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農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センターがあったから。
パンフレットに現在世界的な課題である持続性社会の創生に関する取り組みが記載されており、その説明に共感したため。
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弘前大学 農学生命科学部
りんごの研究をしている大学を探したら、弘前大学がでてきたから。とても魅力的な研究をしているから。
農学部の中でも食品関係を専門とする学科があったから。