船舶・海洋工学は、地球規模で海と人間に関わる幅広いテーマを対象とする学問で、船舶系・海上海洋系・環境系の3つの分野に分かれています。
「船舶系」は、船舶を中心とした構造物の設計や建造、船舶の運航に関する研究を行います。船舶の構造に関しては、物理的な基礎理論を機械・電気・流体力学・制御などの工学分野から学びます。「海上海洋系」は、海洋資源の探索・開発、海底油田の石油掘削プラントや海上空港、海上リゾートなどのレジャー関連施設などの建設に加え、海上輸送システム、船舶による国際物流などについても学びます。「環境系」は、海の潮流や波など自然現象を解明し、海洋環境の保全や水域の有効利用につなげるための研究を行います。国土を海に囲まれた日本にとって、船舶と海洋の利用は非常に重要です。
造船・輸送機械、重機械工業、海運業で船舶の製造や海上輸送に関わるほか、自動車、建設、航空、運輸、倉庫、通信など、バラエティに富んだ業界での活躍が期待されています。海技士免許を取得し、世界の海で活躍する人もいます。
東京海洋大学 海洋工学部 海事システム工学科 教授 近藤 逸人 先生
人類の未来にとって、海は非常に重要な存在です。地球の表面積の約7割を占めている海には、私たちが日頃食べている魚介類などの水産資源が豊富に存在しています。ただ、そうした水産資源がこれからもずっと安定的に得られるとは限りません。乱獲や環境汚染など、私たちの不用意な行為によって、貴重な資源がたやすく失われてしまう危険性があります。
そうした中で現在注目されているのが、水中ロボットを水産資源の管理に生かす、というアイデアです。放牧中の羊の群れを見守る牧羊犬のように、海の中で魚を「放牧」しながら見守る水中ロボットの研究が進められています。
水中ロボットには、比較的長距離を安定して航行するために魚雷のような形をしたタイプと、プロペラをたくさん搭載することでより細やかな動きができる「ホバリング型」と呼ばれるタイプがあります。現在、魚の「放牧」への活用が考えられているのはホバリング型の水中ロボットで、魚たちと共に移動しながらその様子を観察したり、必要に応じて魚たちに餌付けをして誘導したりするための機能の搭載が検討されています。例えば、水中ロボットに搭載した自動給餌(きゅうじ)システムで餌を与える際、どのように魚に刺激を与えればロボットの周囲に居ついてくれるようになるのか、光、音などを用いた研究が続けられています。
魚の「放牧」に用いる水中ロボットの技術的な課題としては、水中での長期間の活動に不可欠なバッテリーの開発や、海中と地上との音を使った通信ネットワークの精度と速度の改善などが挙げられます。そして何より、ロボット自身が状況を判断して行動に移すための自律機能のさらなる向上が必要です。これらの課題が解決されれば、水中ロボットは水産資源の安定的な確保の一端を担う、大切な存在になることでしょう。
東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学科 教授 宮本 佳則 先生
海洋生物の情報収集に「超音波バイオテレメトリー」という方法があります。魚にピンガーという超小型の発信機を取り付け、受信した音波から魚の位置、遊泳している場所の深さ、水温などの情報を収集します。水中では電波が届かないので音波を利用します。以前、カナダとアメリカが共同で大規模な魚の生態調査を行ったこともあり、現在はバイオテレメトリーの装置はカナダのメーカー1社がシェアの9割を占めています。
発信機が超小型のため、単一の周波数しか使えません。たくさんの魚を識別するために、今までの装置はそれぞれが発信する断続的な音波の間隔を変える方法を取っていました。しかし狭い範囲では同じ声の人が一斉に話すような状況になり、音が重なると聞き分けられません。日本では定置網の中での魚の泳ぎなど、狭い範囲で細かな行動を調査したいというニーズが多くあり、この方法では困難です。
そこで日本独自の装置の開発が始まりました。日本の装置には、携帯電話やGPSの技術をもとに特殊な音を出す振動子を利用して信号に識別コードを埋め込む方法が採用されています。これによって同じ周波数でも、個々の信号を識別することができ、これにより狭い範囲での調査が可能になりました。
この技術は生物の調査だけでなく、漁業の発展にも応用されています。海中の潮の流れは一様ではないため、漁具を意図した場所に入れるのは困難で、長い経験が必要です。そこで、漁具にピンガーを取り付け、水中マイクを海中に入れることで、投げ入れた網などの位置や水深がわかります。生物に付けるピンガーは小型化と長寿命を両立するために発信間隔を変えるなどの改良を重ねる一方、漁具に付けるものは電池交換ができるように逆に大型化させるなど、実用に向けた装置の開発が進められています。
日本独自の装置の普及とともに、漁業就業者数の減少に対する効率的な漁獲に役立つことが期待されています。
横浜国立大学 理工学部 建築都市・環境系学科(環境情報研究院) 准教授 村井 基彦 先生
海洋工学とは、海という空間をどうやって利用するかを考える学問です。海にあるものといえば、魚だけでなく海底火山や海洋深層水、波などさまざまなものが思い浮かぶでしょう。日本は周囲を深さのある海に囲まれ、排他的経済水域の広さは世界屈指の国です。2007(平成19)年より、海洋基本法が施行され、海洋の開発・利用そして海洋環境の保全との調和が日本の海洋政策の柱の一つに位置づけられました。今後ますます海の活用は注目されるようになり、海の可能性を引き出すために、海洋工学の出番も多くなることでしょう。
海洋空間の活用法の一つとして挙げられるのが風力発電です。風力発電は、送電やメンテナンスに必要な分以外はCO2を出さないのでエコロジーの面でも注目されています。海上は陸上に比べて風が強く、また当然広いので大きくて効率的な風車を設置することができます。ただし、日本の海は深いので、海に浮かぶ新しいタイプの風車を開発する必要があります。
風力のほかにも、イギリスを中心として波の動きを利用した波力発電の開発が進められており、アジアの中では比較的波の強い日本での開発も期待されています。これらの技術開発は海洋工学なしには進みません。
海は地球の表面積の多くを占めており、海洋工学と環境の問題は切り離せません。人間がきちんと海をコントロールしていけるシステムを考えるのも海洋工学の大きな役割なのです。例えば、タンカーの事故で海に原油が広がったとすると、海洋工学の考え方を応用したシミュレーションでは現在の姿だけでなく、1日後はどうなるか、1週間後は、と予測して回収船をどう使うか考え、海や海岸を守ることも海洋工学の役割です。
今、地球がどうなっているか、人間が何をしているかを常にチェックしながら、海という空間の可能性を引き出していく海洋工学は、環境の世紀と呼ばれる21世紀にさまざまな形で活躍することが期待されています。
神戸大学 海事科学部 海洋安全システム科学科 准教授 山地 一代 先生
日本は海に囲まれているので、ものを運ぶのに船が使われることが多い国です。もちろん、国内では車を使った物流も発達しています。では、輸送によって排出される排ガスはどのような状態になっているのでしょう。
自動車の排ガス規制は、日本ではかなり進んでいますが、自動車とは違い重油を主な燃料としている大型船舶の排ガスによる影響は、定量的には測られていないのが実情です。このような状況に対し何らかの対策を講じようと、国際的な機関なども動き始めています。
船舶の安全や船舶による海洋汚染など海事に関する国際協力をすすめる国連の国際海事機関(IMO)では、各国で船舶の排ガス規制を行ってもよいとしています。これは、自国に入る各国の船舶に対して規制をかけることができるというもので、アメリカやヨーロッパでは規制の動きが進んでいます。
船舶からの排ガスは大海原に出たらそれほど影響はないと言われていますが、湾内に入ると船が集中するので、陸域への大気汚染の影響も調べなければなりません。そのために日本でも精度の高いシミュレーションを行った上で、規制をする必要があると言われているのです。
大気環境学の分野では、大気汚染に関して、人間の健康やPM2.5の環境への影響がどれくらいあるのか、また、規制した時にその地域にどれくらいメリットがあるかを調べ、その数値を予測しています。
近年、地球温暖化の影響からか氷がとけて北極海航路が夏期の短い間、開通するようになり、今後多くの船舶が往来することも予測されます。これまで船舶が通らなかった場所ですから、国際的なルールの必要性も指摘され、船舶の排ガスが環境に与える影響を評価していかなければなりません。こういったところでも、大気環境のシミュレーション技術は生かされる可能性があるのです。
神戸大学 海事科学部 マリンエンジニアリング学科 准教授 山本 茂広 先生
AI(人工知能)を活用した自動車の自動運転は、世界中で研究・開発が進められています。同様に海上を航行する船の自動運転技術も開発が進められています。カメラを使って景色や風景を認識しながら船を誘導し、ほかの船や障害物との衝突を自動で防止するといった、船舶の安全航行を目的としています。
現状でも船にはレーダーやGPS、ジャイロコンパスといった航海計器によって、ある程度の自動航行は実現されています。ただし本当に見落としや見誤りがないかといった最終的な見張りは、人間の目視によって行われています。それでも見落としなどの人為的ミスもあるため、時折、船同士の衝突や座礁といった事故が起こります。
人間に代わって周囲の風景を認識するためには、AIによる画像認識技術が使われます。画像に映る船や橋脚、航路標識などを学習させることで、周囲の風景を正確に認識させるのです。また、船は急に止まったり方向転換したりすることができないため、自動車の10倍以上遠方にある障害物をいち早くとらえることが求められます。その際に用いられるのがステレオ計測です。人間の目の仕組みのように、2台以上のカメラを設置し、それぞれの視線が交わるポイントによって距離を計測します。視線の角度にズレがあると、距離計測に大きな誤差が生じるので、何度も計測した結果から適切なデータを選ぶフィルタリングという手法で精度を向上させます。
船の自動運転は、外国航路の貨物船など大型で長距離を航行する船舶から導入が進められると考えられています。しかし将来的には、多くの船が行き来する港湾や、海峡といった込み入った場所での活用が期待されます。こうした場所では船舶の上からだけでなく、陸上にカメラを設置して自動認識を行う研究も進められています。特定の船だけでなく、港全体の交通インフラとして導入されれば、多くの船の安全性を向上させることができるでしょう。
自分の目標である海洋資源開発について専門の学科を持ち、さらにその分野において優れた研究者も多数在籍するため
関東にあり、鯨類の研究ができる唯一の国立大学だから。
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MITの教育プログラムを取り入れているという教育内容も良い
志望した海洋工学の研究に特化している
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日本で唯一の船舶を学べる総合大学だから
環境系、特に海洋方面に興味があって海事科学部だと自分のやりたい勉強に加えて他の幅広い分野も学べると思った
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東海大学 海洋学部
海洋生物、深海生物に関することを学びたいと思い、東海大学海洋学部を志望しました。
養殖研究に力を入れている先生がいるから