「バイオテクノロジー」とも呼ばれる生物工学は、細胞や遺伝子、生体の仕組みなどについて学び、生物学分野の基礎研究で解明された生命のメカニズムを利用して、新しい物質や技術を開発し、産業や医学・薬学への応用をめざす工学的な学問です。主な分野は「遺伝子工学」と「細胞工学」の2つです。
「遺伝子工学」は、遺伝子の組み換え技術によって生物に新たな特徴や性質を与え、遺伝子の解析などを行うもので、作物の品種改良や人間の遺伝子治療などにも関わります。「細胞工学」は、マイクロインジェクション(細胞への遺伝子注入)の技術で特定の細胞の状態を作り出したり、がんの原因の解明をめざす研究なども行われています。生命や自然への影響に関わる研究も多く、倫理観が問われる学問分野でもあります。
多くの人は医薬品・化粧品・食品・醸造などの企業に就職しますが、厚生労働省・経済産業省・環境省などの省庁や、国立の研究所に進む人もいます。研究開発職での就職を希望し、高い専門性を身に付けるために大学院へ進学する人もいます。
山形大学 工学部 機械システム工学科 准教授 西山 宏昭 先生
「手術が難しい脳内出血の患者を救うため、ミクロサイズの医師を乗せた潜航艇を血管内に送り込み、出血部をレーザー光線で治療しよう!」
これは半世紀も前に大ヒットした『ミクロの決死圏』というSF映画の話です。次世代型ロボットの開発が著しい現代において、大きさが赤血球と同じくらいのマイクロマシンを血管内に侵入させ自由に動かすという技術開発がすでに行われています。まるでSFの世界のイメージですが、至る所で導入が進むロボットが、活躍の場を人の体内へと広げようとしているのです。
体内にマシンを送り込む方法として注射器の使用が考えられますが、注射針を通る極小サイズにすることが大前提となります。しかも体内に入って、例えば赤血球をつかんだり離したりという複雑な動作を行えるようになることも必要です。とはいえ、いまだに3次元のマイクロ構造を作るだけで驚かれる時代です。LSI(大規模集積回路)を作る高度な技術をもってしても、極小な、しかも独立の動きをするマシンを作ることは難しいのです。
前出のSF映画では人が小さくなって潜航艇に乗り込み、外部と連絡をとりながら治療に挑みますが、現実世界では人を極小化することはできません。そのため血管に挿入したマイクロマシンを体の外からコントロールすることになります。ただし、人の体内は水分だらけですから電気を使うとダメージが大きく、最も有力なのが光と磁気を使ったアプローチです。
可視光(約400~800ナノメートルの波長範囲)では生体を透過しないので、「生体の窓」と呼ばれる透過しやすい近赤外線などを使って体内に入り込んだマシンを動かすことが検討されています。光と材料の最先端の相互作用や磁気を組み合わせ、生体内であっても複雑動作が可能なマイクロマシンを実現することで、難病の治療の可能性が期待できるのです。
横浜市立大学 理学部 理学科 教授 池上 貴久 先生
タンパク質は高分子化合物で、常に同じ形をしているわけではなく、もっている機能を発揮する過程でその形や動き(ダイナミクス)も変わっていきます。タンパク質の立体構造を決めて、動きを把握する研究が行われています。タンパク質の形を見るにはいくつかの方法があります。1つは電子顕微鏡です。ダイレクトに形を見られますが、ある程度大きな分子にしか使えません。2つめはX線結晶構造解析という方法です。結晶化させた状態でX線を当てその折れ曲がり方を分析して中の形を解析していきます。結晶化させることが条件なので、変化の順序や動きまではあまりよくわかりません。3つめがNMR(核磁気共鳴)です。水に溶かして卵の白身のような状態にしたタンパク質を直径5mm程度のガラス管に入れ、超伝導を利用した大型の磁石の機械に入れて、形を分析するものです。結晶化する必要がなく、動きもわかることで注目されている方法です。
タンパク質の構造は似た構造も含めると1年に1万種類近く発見されることもあり、研究によって決められるごとに登録される「蛋白(タンパク)質構造データバンク」には、世界中で10万種類以上のタンパク質の構造が登録されています。形を決めるのに20~30年かかることもあれば、数カ月で特定できることもあります。
ある物質の形を鍵とすると、それにぴったりと合う鍵穴の凹凸をもったタンパク質が存在する場合があります。その鍵穴の形を調べて合鍵となる別の物質を設計すると、そのタンパク質の働きを制御することができます。製薬の開発でよく使われる原理です。
また、タンパク質はDNAを設計図として作られていきますが、DNAは時間とともに劣化していき、どこか異常な部分が出てきます。これががんの原因にもなります。タンパク質の構造や動きを把握することは、人の命を救う可能性を秘めているのです。
長岡技術科学大学 工学部/工学研究科 技術科学イノベーション専攻 准教授 大沼 清 先生
iPS細胞とは、ヒトのあらゆる細胞になることができる「万能細胞」です。近年では、iPS細胞から作られた細胞シートを、網膜に移植する手術が行われるなど、再生医療や薬学での実用化が進められています。しかし、iPS細胞の基本的な性質は、まだ十分に解明されているわけではありません。iPS細胞が、どういう環境のもとで、どういうlog22「ふるまい」をするのかを厳密に明らかにすることは、今後、医療や薬学の分野でiPS細胞が活躍するための不可欠の基礎研究と言えるでしょう。
πr222通常、再生医療などの分野では、iPS細胞をできるだけ自然に近い環境、つまりヒトの体の組成に近い環境の中で培養し分化させます。ヒトへの移植を展望するためには有効な方法です。しかし、一方で、あえて「人工的な環境」を作り、その中でiPS細胞がどのような変化を起こすのかを、厳密に細かく解析することも有効です。例えば、全成分を完璧に把握した培養液を独自に配合して、iPS細胞がどういう変化を起こすのかを解析するといった方法です。
また、iPS細胞が分化する仕組みを解明するために、物理学の理論を応用する方法もあります。例えば、細胞が増殖を経て原腸形成期に入ったとき、複数の細胞がバラバラに移動し、心臓になったり、肝臓になったりするのですが、このときの移動がランダムに起こっているのか、それとも何らかの目標を持った移動なのかを知ることは、iPS細胞の解明にとって、たいへん重要です。
もし、ランダムに移動しているのであれば、その運動は物理現象の1つであるブラウン運動の式である「アインシュタインの関係式」にあてはまります。つまり、あてはまらなければ、何らかの目標があることになります。iPS細胞の解明のためには、今後もさまざまなアプローチが求められているのです。
岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 教授 横川 隆志 先生
肌や臓器など生物のパーツを構成するタンパク質は、生命にとって重要な役割を果たしています。タンパク質の機能の解明は生命を追究することと同時に、創薬や医療などへの応用にもつながります。では、タンパク質はどのように作られているのでしょうか。
タンパク質を構成しているのは、20種類のアミノ酸です。アミノ酸の種類や数、連結される順番などにより、多様なタンパク質に作り分けられています。この内容を決めているのが遺伝子であるDNAです。DNAがどんなタンパク質を作るのかを指示しているのです。
人間も、酵母や大腸菌といった微生物も、タンパク質を合成する工程はほぼ同じです。したがって、微生物を利用すれば、スピーディーにタンパク質を作ることができます。でも、微生物の種類ごとに微妙な違いがあります。その違いを解明することで、より効率良くタンパク質を作れるようになります。
さらに、遺伝子操作によって設計図であるDNAを変えれば、新しいタンパク質を作れます。また、アミノ酸は、何百種もあり、人工的に作られたものを含めると膨大な量になります。これらを利用すると、今までにない新しい物質を作ることもできるでしょう。シルク以上に光沢のある繊維ができるかもしれないし、クモの糸より強力な物質ができるかもしれません。
また、近年になって21種のアミノ酸をもつ微生物(アーキア)が発見されました。これも多様な可能性を秘めています。メタンガスを発生させて生育するので、DNAを設計して大量のガスを発生させられれば、エネルギー問題に貢献できるかもしれません。さらに、アーキアは酸素がなかった地球史上の初期にも存在したと考えられる微生物です。きっとアーキアの研究は、生命の起源についての研究にもつながっていくでしょう。
このように、タンパク質の研究は、まだまだ未知の部分が多く、幅広い可能性を秘めた分野といえます。
熊本大学 工学部 情報電気工学科 教授 勝木 淳 先生
ある物体に電力を加えるとき、直流的な加え方とパルス的な加え方があります。直流的な電力は、電力が持続する点が特徴ですが、大半がジュール熱という熱エネルギーへと変わってしまいます。一方のパルスパワー(パルス大電力)は、1000万分の1秒という非常に短い時間の中にエネルギーが圧縮されるため、電気が熱よりもむしろ「力」として作用する点が特徴です。
「バイオエレクトリクス」という工学と生物、医、薬、食品にまたがる複合分野では、このパルスパワーを使って、DNAやタンパク質などの生体高分子や、細胞内器官に直接的にストレス(力)を与え、医療や製薬、食品の分野に役立てる研究が進んでいます。
研究の一つに、食品の殺菌があります。生物を構成する細胞は、細胞膜と呼ばれる脂質の膜で覆われていて、この膜が破壊されると細胞は死んでしまいます。パルスパワーの研究が進んだ現在、細菌の細胞膜だけを狙って電気的な力を加えることができるようになりました。食べ物を腐らせてしまう細菌も細胞で構成されていますから、パルスパワーを使って細胞膜を破壊すれば、細菌を殺すことができるのです。ジュール熱が発生しにくいため、一般的な加熱殺菌と比べて食べ物の風味や質感が損なわれにくく、安全で品質の高い食べ物を提供することができます。
もう一つの研究は、細胞内に含まれる成分の抽出です。例えば薬草は煎(せん)じて飲まれますが、煎じるとは、熱で薬草の細胞膜を破壊して中身の成分を抽出するということを意味します。しかし、熱は膜だけでなく中身の成分も壊してしまいます。そこで、パルスパワーを用いて細胞膜だけを破壊すれば、中身の成分は壊さずに抽出できます。
このように、パルスパワーは食品や製薬といった分野を飛躍的に向上させる可能性を持っているのです。産業界からの注目も高く、現在は実用化に向けた試験が進められています。
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情報科学と生命科学が両方学べる。ゲノム情報に興味があるから。
プログラミングを1年次から学べ、全国的に珍しい講義も多く、就職支援も充実していて就職率も全国的に高い水準にあるから
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教育環境が整っている。雰囲気が良い。資格が取れる。
先生の熱意が伝わって来たこと。研究を実際に体験してみておもしろかった事、設備がすごいと感じた事です。
地域に貢献する大学として地元で活躍しているから
自分は将来製薬会社に勤めたいと思っているが、そのための専門分野の学習・研究が岐阜大学で可能だから。
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見学に行った時先輩方や先生方に魅力を感じ、行きたい学部学科がありここで学びたいと思ったから
卒業後の就職先に創薬会社や、医療関係に勤めた方がおおく、魅力を感じました。
山形大学 工学部
目指している医療福祉分野を学べるのに適していたから。
学校に行ってみて先輩たちが熱心に研究していたので魅力を感じました。