応用化学は、これまでに得られた化学の知識を活用し、生活や文化を豊かにするための素材や材料、物質を開発する学問です。化学が物質そのものの性質や構造を分析して反応や合成などの実験や理論研究を中心とするのに対して、応用化学は実際の製品やそれに用いられる技術を研究・開発することを主目的としています。
化学理論に工学的な要素をまじえて、物質の実用化に向けて実践的な研究を行います。電子材料、セラミックス、生体材料、高分子材料、分子設計などの分野があります。また人工物質のなかには有害物質が存在することから、物質が生体や環境に及ぼす影響と環境保全技術の研究にも取り組みます。このように、応用化学の成果は、医療、エレクトロニクス、食品、環境などの多岐にわたる分野に貢献しています。
石油、合成繊維、樹脂、電気部品などの製造業、環境保護やエネルギー関連の企業で、研究者・技術者として製品開発や生産技術開発に関わったり、化学知識を基に製品販売で手腕を発揮するなど、活躍の場は多岐にわたります。
信州大学 繊維学部 化学・材料学科 応用分子化学コース 教授 西井 良典 先生
物質は分子の構造が少しでも変わると、元の特性が強まったり、毒性が高まったり、いろいろな反応を見せます。新しい有機反応を開発することで、医薬品につながるリード化合物を作り出すこともできます。例えば、三角形の構造をしているシクロプロパンという分子の構造を変えると、がんに効果がある抗腫瘍作用を持つ化合物や、抗ウイルス作用や抗HIV作用を持つ化合物を合成することができます。
このような有機化学の手法はあらゆる分野に応用できます。例えば、魚類のフェロモンについての研究があります。希少種として知られているサクラマスの雌は、川上でフェロモンを含んだ尿を放出することで、多くの雄たちを引き寄せます。尿のフェロモンの主成分は、「L-キヌレニン」というアミノ酸の一種であることが研究により判明しました。このフェロモンの成分を有機化学的に合成し、特殊なフィルムに含ませて仕掛けに貼り付けたところ、なにも貼らない仕掛けに比べて多くの雄が集まってくる傾向が湖では認められました。しかし、川での実験の際は水の流れの影響なども考慮する必要があるので、さまざまな流れの河川で実験を行い、その精度を慎重に見極める必要があります。
魚のフェロモンを含ませたフィルムシートがあれば、希少種の保護を目的とした生態のコントロールや有害な外来種の捕獲などさまざまな用途に応用できます。例えば、日本の在来種を食べてしまうブラックバスは特定外来生物に指定されています。現在でも雌の個体を使ったフェロモントラップという駆除方法がありますが、ブラックバスに有効なフェロモンの成分を含んだフィルムシートが開発されれば、より効果的なブラックバスの駆除が可能となります。
紹介した例は魚類のフェロモンへの応用ですが、そのほかにも有機化学の研究が進むことで、より豊かで便利な生活が実現するでしょう。
三重大学 工学部 総合工学科 応用化学コース 准教授 藤井 義久 先生
プラスチックは、分子(モノマー)が長くつながった鎖状の高分子(ポリマー)で構成されています。ペットボトルも輪ゴムも同じプラスチックですが、室温によって軟らかくなるかどうかで、違いが出ます。また、プラスチックを長年放置しておくと、変色してもろくなるのは、紫外線の光エネルギーやほかの条件によって、分子の鎖が切れてしまうからです。
高分子は、ゆでたパスタのように曲がりながら動いていて、ほかの物質や空気に接している面「界面」と、何にも接していない内部では、その動き方が違うことがわかっています。
高分子は、固体などに接しているときはひしゃげた状態で、あまり身動きがとれません。その材質がザラザラしているか、ツルツルしているかによっても、動き方は変わります。一方、空気に接している界面では、比較的、自由に動けます。
では、水に接している場合はどうでしょう? 研究の結果、プラスチックのナノ単位(100万分の1mm)の表面で、分子の鎖がゆらゆらと動いていることがわかりました。つまり、水に部分的に溶け出していたのです。通常、高分子を直接見ることはできませんが、中性子線による散乱現象や赤外線分光などを利用することで、総合的に判断できるのです。
では、プラスチックの一種、アクリル樹脂でできた水族館の水槽の界面はどうでしょうか? 水槽の界面では分子同士をつなぐ手を2本から4本に増やすなど、構造をより強くして溶け出しにくくしてあります。これを「架橋」構造といいます。同じプラスチックのコンタクトレンズの場合は、内部は形を保つように架橋構造にしていますが、直接目や空気にふれる界面は、架橋の密度を低くして、より水分となじむように工夫されています。
このように界面に注目することで、生体に適合しやすい材料、製品の品質や安全性を高める材料など、さまざまな材料を作り出すことができるのです。
慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 教授 朝倉 浩一 先生
夏になると活躍する化粧品の1つに、日やけ止め(サンスクリーン剤)があります。日本製の日やけ止めのなかには、ある化学現象に着目することで、水に濡れても落ちにくく、しかもライトな感触を実現した高品質の製品があります。「散逸構造」という現象を利用した日やけ止めです。
私たち生命体には、バイオリズムとよばれるさまざまな周期現象が自発的に発生しています。ところが、外部から酸素と栄養素を取り入れ、それらを二酸化炭素などに変換して排出する活動を止めてしまうと、生命体ではなくなりバイオリズムも停止、つまり死んでしまいます。生命のリズムのある挙動は、生命体が外部と物質やエネルギーのやり取りをできる「開放系」であるために発生します。これに似た、時間・空間的にリズムのある現象が、生命体ではない人工的な化学系でも起こる場合があります。それが「散逸構造」です。
例えば「ワインの涙」という現象があります。ワインをグラスに注ぐと、グラスの内壁に涙のようなワインのしずくが、空間周期性をもって自発的に現れては滴り続けます。これは、グラス内壁に接しているワイン表面からアルコールが蒸発すると、残った水分の濃度が高くなり粒状になって滴るもので、ワインの中にアルコールがある限り続くのです。
冒頭で紹介した日やけ止めを塗ると、表面に自発的に細かな凹凸構造ができます。これも「散逸構造」の現象です。ちょうど蓮の葉と同じメカニズムで水をはじくため、耐水性が備わります。通常、耐水性を高めるには樹脂量を増やすのですが、そうすると、どうしてもベッタリと重い付け心地になってしまいます。この化学現象を活用することで、樹脂量を増やすことなく耐水性を高められるわけです。加えて、表面の細かな凹凸構造が光を乱反射することで、テカりが抑えられるという利点もあります。
「散逸構造」を化粧品のみならず産業技術に応用するのは、世界的に見てもたいへん珍しい着眼点といえます。
大阪工業大学 工学部 応用化学科 教授 藤井 秀司 先生
「高分子化学」と言われてピンとこないとしても、身の回りを見渡してみれば、実は高分子に囲まれて暮らしていることに気づきます。ゴムやプラスチック、紙、服はもちろん、スマホやあなたの体の大部分も、実は高分子でできているのです。また、新しい素材も日々生まれています。傷が治るまで貼っておくばんそうこうや、薄いのに弾力性があるクッションなど、高分子素材の開発は、日進月歩で進んでいます。
新しい素材を開発するとき、生物に学ぼうという考え方を「バイオミメティクス」と言います。生物は、化学と物理の法則に基づいて30億年もの時をかけて進化してきた精密なシステムでできています。例えば、電気などの外部エネルギーを一切使わずに100m以上水を運び上げ続ける樹木や、風を上手に利用してさまざまな飛び方で空を飛ぶ鳥など、これからの省エネ社会を作っていく上で、人間は生物に学ぶべきことがたくさんあります。生物の構造やプロセスを工学的な視点で観察し、化学とどう融合させて何を開発していくかが、バイオミメティクス研究の面白いところです。
バイオミメティクス研究に基づいて開発された新しい素材を紹介しましょう。
あるアブラムシは、葉っぱをくるんで作った巣の中で生きています。自分で出し続ける蜜で溺れるかと思いきや、そうはなりません。よく観察すると、葉っぱにたまった蜜はべたつかず、風や雨などから与えられる振動で巣からぽろぽろと出ていくのです。その蜜の構造に倣って、粉のようにサラサラしており、圧力を加えたらベタベタの粘着性が出るという素材が開発されました。この研究は、国内外の注目を集めています。今後、どんなふうに製品化され、私たちの暮らしに役立ってくれるのか、高分子化学とはまた別の斬新なアイデアが期待されています。
香川大学 農学部 応用生物科学科 准教授 吉原 明秀 先生
自然界にわずかしか存在しない、さまざまな糖のことを、まとめて「希少糖」といいます。ガムなどに使われている希少糖「キシリトール」はよく知られています。ある種の希少糖には、動脈硬化や血糖値上昇抑制作用、肥満などの予防効果があるとされ、食品や医薬品などへの応用研究や商品開発が進められています。希少糖を使った商品は、年々増えています。代表的なものの一つが、砂糖の7割の甘さがありながら、血糖値上昇を抑える効果などがあると言われている希少糖「D-プシコース」を含んだ甘味料です。ダイエットの心強い味方として人気です。
希少糖は、ブドウ糖や果糖といった自然界に多く存在する糖から作ることができます。微生物や微生物が持つ酵素が糖に作用し、その分子構造を変えることで、希少糖が生まれます。世界で初めて酵素を用いて果糖から希少糖D-プシコースが作られたのは、1990年頃のことです。香川県で、果糖に作用する新規酵素が発見され、果糖から「D-プシコース」を作り出すことに成功しました。そこからさまざまな微生物やその酵素が新たな希少糖の生産に応用できることを明らかにして、約50種類の希少糖を生産するための設計図「イズモリング」が考えられたのです。この発見により、手軽に買えるブドウ糖や果糖から、高価な希少糖を作ることが可能になりました。現在も、誰も見たことがない希少糖がどんどん作れるようになってきています。
糖は、食品に使われているイメージが強いですが、医薬品や衣料品、さまざまな工業製品でもすでに活用されています。希少糖の機能はまだまだ研究段階のものが多く、さまざまな分野で使われている糖を希少糖に置き換えることができれば、さらに新たな機能や特性を備えた商品を開発する道が開けます。世の中の人々の生活をさらに豊かにするために、希少糖のさらなる活用が期待されています。
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分子素材工学科では化学の力を使い新たな物質を作る研究がなされていてそれに興味を持ったから。
工学部は新しい学科に変更するから。
理工学部で自分のやりたい分野が学べるのはここだったため
化学をメインで学びたかったから。
送料とも無料
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応用化学を学ぶため
自分のしたい学科があり、研究設備も豊富だと知ったから。
施設が整っており、何より研究内容に興味を持ったから
工業の専門大学なので施設等も整っているので選びました。
信州大学 繊維学部
全国唯一の繊維学部があること。理学、工学、農学、医学の融合分野を学べること。
学びたいバイオミメティクス寄りの研究が出来ると思ったから。