固体・液体・気体など、あらゆる物質の性質や化学変化の仕組みを調査・分析し、暮らしに役立つ新しい物質を作り出す学問です。薬品や新素材、半導体、セラミックなどの開発につながる物質研究をはじめ、バイオや光通信など多彩な分野とも関連します。物質と環境の関係を分析し、環境保全技術を開発する研究も行われています。ナノテクノロジーや高分子ポリマー、有機ELなど、新しい機能や性質をもった素材や物質により、生活は大きく進歩しています。
その研究分野は、炭素を含む物質の合成・反応・変化を研究する「有機化学」、金属やガラスを扱う「無機化学」、物質の構成や状態変化のメカニズムを探る「物理化学」、物質の計量や解析を行う「分析化学」、タンパク質などの生体に関する化学反応を対象とする「生化学」などに分かれています。
化学メーカーのほか、金属・医薬品・食品などの製造業、流通・サービス業、専門書を扱う出版業界など、就職先は多岐にわたります。教員や公務員になる人もいます。大学院へ進学して、企業や研究機関での研究開発職をめざす人も多くいます。
東京理科大学 理学部第一部 化学科 教授 宮村 一夫 先生
私たちの身のまわりの物質は、複数の分子が集合したもので、その構造の多様性から生じるさまざまな機能があります。これらの分子がお互いにどう作用し、どのような集合状態にあるのかは、まだまだ解明されていないことばかりです。
仮に、こうした分子の集合状態を制御し、設計通りの分子構造を構築できるようになれば、多様な機能を持つ物質を新たに生み出すことができるようになります。従来の化学研究では、複雑な分子を作って薬にしたり、工業系の材料にしたりすることが主流でしたが、現在ではこうした「分子の配列をどう制御し、新たな構造を作るか」に注目が集まっています。
例えば、「生卵」と「溶き卵」は見た目だけではなく、分子の構造も違っています。つまり、生卵の黄身には「黄身の分子の配列」があり、白身には「白身の分子の配列」があるのです。これらが混ざり合うことで溶き卵となり、違った分子構造を形成します。
「生卵から溶き卵を作る」のは簡単ですが、「溶き卵を生卵の状態に戻す」のは、今の技術では難しいですが、分子的な解明が進めば、その構造の違いを利用して黄身と白身の再分離が実現できるようになる時代が来るかもしれません。
理学部の研究は、「探索」→「発見」→「解明」→「予測」と進みますが、「発見」や「解明」は分析化学なしには実現できません。「こんな製品を作りたい!」と考えることは大切ですが、真に優れた製品を開発するためには、ただ作るだけではなく、不具合が発生したときの原因分析や、それをふまえた改善も必要です。
研究開発は「リサーチ・アンド・デベロップメント」とも表現されますが、この「リサーチ」は「いつ開発できるかわからないものを純粋科学的に追究すること」であり、こうした「探索型」の視点は、優れた製品開発には欠かすことのできないものなのです。
奈良女子大学 理学部 化学生物環境学科 准教授 高島 弘 先生
植物は、太陽の光を利用して光合成を行い、水と二酸化炭素から酸素やでんぷんを作り出します。植物を構成するタンパク質を分子レベルで観察すると、クロロフィルとよばれる光合成色素分子が光エネルギーを吸収することで、反応がはじまります。このはじめの過程を光励起(れいき)といい、光励起状態にある分子中の電子が、違う分子へと次々に移動していく(これを電子移動反応という)ことで、さまざまな化学反応を段階的に起こしていることがわかっています。
この電子移動反応は、マーカスという化学者が理論化し、その功績に対して1992年にノーベル化学賞が与えられました。分子が光を吸収して励起状態になるまでの時間は、10のマイナス15乗から12乗秒と非常に速く、その後10のマイナス9乗秒といった時間の中で段階的にエネルギーが低くなり、さらに1,000倍ぐらいの時間をかけて2つの分子の間での電子移動反応が起こります。一瞬の間に起こる電子移動の過程は、もちろんわたしたちの目ではとらえきれません。研究実験では、「時間分解分光測定装置」という、レーザやLED(発光ダイオード)を使用して特定の光を発生させる装置を使ってその過程を観測したりします。
植物をはじめ、生体のタンパク質の中で起こっている光反応を人工的に再現し、応用につなげる研究も行われています。例えば、本来は光合成に関係しないようなタンパク質に、光に反応して電子を移動させる機能をもたせることも可能です。クリアすべき課題は多いものの、一つひとつの過程を分子レベルで再現していくことができれば、例えば植物がないところで、タンパク質を使って酸素を生み出したり、新たな燃料をつくったりすることができるかもしれません。このような研究は、光化学や生体関連化学というような、化学分野の境界的な学問として、大きな役割が期待されています。
甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 准教授 長濱 宏治 先生
ゲル(英語で言うとジェル)とはひと言でいえば固体と液体の中間の性質を持つ物質の状態で、こんにゃくやゼリー、保冷剤、コンタクトレンズなど身近なところにもたくさんあります。これらのゲル内部ではポリマー(低分子化合物の重合体)や分子の集合体がジャングルジムのような網目構造を作っていて、その構造の中に水分を保持できるため、ぷるぷる、ぷにぷにとしたやわらかな半固体の状態を保っています。これらのように水を溶媒としたゲルをハイドロゲルといい、実は人間の皮膚や筋肉、臓器など体の大部分もハイドロゲルなのです。
人間の体の60~70%を占める水分は、生物の細胞内部にあるタンパク質などの網目構造によって保持されているため、人間の体はゲルでできているといえるのです。ですからゲルは生体にやさしい材料として、さまざまな医療分野での応用が期待されており、高機能・多機能なゲルを作ろうとする研究が数多く進んでいます。
そのひとつとして、細胞そのものからゲルを作る世界初の試みがすでに成功しています。細胞と生体適合性のある高分子を反応させて、細胞と同じような機能を持つ「生きているゲル」を作ることができたのです。
細胞を材料としてゲルを作ることで、その細胞の自律性や自発的な応答反応を直接ゲルの機能として持たせることができます。そのため、薬の成分を包み込み体内に注射すれば、細胞が分裂する性質を利用して、狙った時間と部位で薬を効かせる「DDS(ドラッグデリバリーシステム)」に応用できます。
また、ゲル自身がくっつく相手の性質を識別できるため、特定の場所だけにゲルを接着させることもできます。さらに、ゲル内の細胞が自己増殖するので、損傷した組織の再生素材としても使えます。体内の組織となじみやすく、生体の負担も少ないこの「動的なゲル」が、再生医療の未来を変えるかもしれません。
神戸大学 理学部 化学科 准教授 松原 亮介 先生
医薬品、プラスチック、そして私たちの体など、世の中にある物質すべてが分子からできています。しかし、その分子を形成する元素の種類はわずか100種類程度しかありません。しかも、身近なものに限ると、もととなる元素はせいぜい30種類くらいです。つまり、限られた元素からその組み合わせによって多様な分子が作られ、無限の物質が生み出されているのです。
そして分子を自在にデザインして新たなものを人工的に作り出す学問が有機化学です。また、新しい分子を作るだけではなく、既にある分子をより効率的に合成するための手法も考えます。例えば、10万円の薬を100円で作れるようになれば、その薬をより多くの患者さんに届けられることになるからです。
身の回りの有機分子をみてみましょう。例えば、痛み止めの薬のアスピリンは、ヤナギから抽出されたサリチル酸がヒントになり、合成してできた薬です。昔からヤナギには鎮痛作用があることが知られており、その分子構造が参考にされました。また、甘い・辛いという味も分子で説明でき、唐辛子の辛さはカプサイシンという有機分子の量によって決まります。虫のコミュニケーションにも分子構造が影響しています。例えば蟻(あり)は、同じ種であっても違う集団に属する蟻は敵とみなします。蟻の見た目はまったく同じなのに仲間か敵かを区別できるのは、集団ごとにフェロモンの分子構造に違いがあるからなのです。
薬学、材料科学、生物学など多くの分野のベースに有機化学があります。有機化学は物質の性質を知る基礎の学問であり、世の中を変える夢のような分子を作り出すことができる学問でもあります。実際の研究の場ではいろいろな反応剤を試したり、加熱温度を10度ずつ細かく変化させたりなど、多数の実験を繰り返します。そして成功するのは、100回のうち1、2回ほどに過ぎません。それだけに豊富な知識のほか、実践力、好奇心が求められる学問なのです。
徳島大学 理工学部 理工学科 応用化学システムコース 教授 高柳 俊夫 先生
「分析化学」は、「どのような方法で分析・測定すれば、求める結果が得られるか」を研究する学問です。機能的な分析のためには分析試薬を使う場合があります。しかし、基本的には新しい試薬をつくり出すことはしません。それは、今までにない試薬は、ひょっとしたら人間に有害かもしれませんし、環境にとって悪い影響を与える危険性があるからです。ですから、既存の試薬を最大限活躍させる研究を進めています。同じ試薬でも、活躍させる「場」を変えると予想もしなかった機能が現れることもあります。
分析法開発ではエタノールなどの有機溶媒も使用しますが、メタノールやベンゼン、クロロホルムなどは有害です。これまでは、こうした有害物質も溶媒として使っていました。しかし現在の化学では有害な物質をできるだけ使用せず、人間や環境に負荷をかけないようにする動きがあります。これは「グリーンケミストリー」と呼ばれ、分析化学の領域では、水を溶媒として分析する方法がその一つです。
ただ、有機溶媒中ではイオンとイオンが引きあう相互作用が強いなど分析法に利用しやすいのですが、水の中では通常、物質間の反応性は低いという弱点があります。一方で、水中だからこそ強く相互作用する反応もあります。そのような相互作用や反応を見つけ出し、水という「場」を活用して、物質の分析に利用できる方法をつくり出す研究を進めています。
これまで化学は有害な物質を使って、排出しているといった悪いイメージがありました。かつての公害などでの化学の悪い印象を払しょくするために、現在では、最終目的物質が同じであっても、水のような環境に負荷をかけない材料に置き換えていこうとする研究者が増えています。
企業の工場でも、水のように無害であれば下水に流しても問題はありません。環境への配慮が求められている時代に、化学も流れが変わりつつあるのです。
1年次には幅広くいろいろな分野が学べ、学年が上がるにつれて少人数制のより専門的な講義・実習が多数用意されているところに魅力を感じたため。
環境科学を学べるので。
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好きな化学、創薬の勉強ができるから。
他大学にはない学習環境が整っていて充実した大学生活ができそうと思ったから。1年次から専門実験ができるから。
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自分の数学が社会に出てからどんな事に使えるのかを見つけるため。
生命科学、細胞、遺伝子の研究ができる大学
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ノーベル物理学賞の中村教授の出身大学でもあり、応用化学の研究を学びたい条件が整っていた。
理工学に関する素養を養えられると同時に数学の教員免許も取得可能であるから。
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国際基督教大学 教養学部
リベラルアーツなので、ひとつの分野に絞らずに幅広く学べる点です。
ディスカッション式の授業や、英語で学べる環境、生徒と教授の情熱や本気度といった学校の雰囲気などから自分を成長させる環境が整っていると確信したため。